- 新たな「ビジネス寄りの」米国経済
- ウクライナと中東の和平見通し
- 関税-現実と脅し
- 中国経済がつまずく中での新興国の勝ち組と負け組
- グローバル化の進展に伴いメキシコが果たす世界的な役割
- ユーロ圏主要国における政情不安
- 日本のデフレからの緩やかな回復
- 英国の成長戦略はさらなる増税なしで持続可能か
米国
米共和党は今ではホワイトハウスと議会の支配権を握り、政策を大きく変更することが可能です。2025年初めも力強い成長が続くとみられ、トランプ氏の政策の効果が現れるのに伴い、米国の経済活動は緩やかに加速すると予想されます。
減税の延長や企業向けの新たな税制優遇措置といった財政面の変更は経済成長を促進するでしょう。一方、混乱を招く通商政策と移民規制の組み合わせは、経済成長をやや減速させると考えられます。これらを総合し、abrdnは米国の短期的な経済成長見通しを引き上げています。
abrdnは、インフレ率は、財政拡大と関税引き上げにより2.5%前後で膠着状態になると考えています。これは、米連邦準備理事会(FRB)が政策金利を3.50ー3.75%に引き下げた後、利下げを休止する可能性があることを意味します。
貿易面や財政面での積極的な措置が成長とインフレに影響を及ぼす可能性があり、FRBが金融政策をさらに緩和する余地が残されているか不透明です。(James McCann、Deputy Chief Economist、abrdn)
地域紛争
トランプ次期政権がウクライナでの戦争や中東の安定に及ぼす影響は不透明です。
トランプ氏は大統領就任後24時間以内にウクライナでの停戦を実現すると述べていますが、問題の複雑さからして、早期合意の可能性は低いと思われます。主な疑問は、ロシアとウクライナが平和のために歩み寄るかどうか、また何らかの合意が成立した場合、それが続くかどうかです。abrdnでは停戦は不安定なものになると予想しています。
中東では、イランに再び注目が集まるとみられ、制裁や軍事行動も考えられます。国内の圧力がイランを何らかの取引に向かわせる可能性があるものの、その実行可能性には疑問符が付きます。イスラエル、レバノン、ハマス間で停戦合意が結ばれた場合も、合意の持続性が懸念されます。(Lizzy Galbraith、Political Economist、abrdn)
国際貿易
トランプ氏は中国からの輸入品に対して60%の関税を賦課することも辞さないとしていますが、より可能性が高いのは、「不公正な貿易慣行」に対抗することを目的とした現行の「通商法301条」に基づいて、二国間の平均関税率が現在の16%から35ー40%程度に引き上げられることです。
2024年11月の米国の選挙以降、人民元はすでに2%以上下落しています。人民元は、さらに10ー15%下落し、中国の輸出品価格を低下させる可能性があります。
とはいえ、「原産地規則」に重点を置くなど、米国が「関税以外の」措置を講じれば、中国経済により大きな打撃を与え、それがアジア太平洋地域のサプライチェーンに波及するかもしれません。これは、中国によるさらなる報復につながる可能性があります。中国の最近の報復措置としては、重要鉱物の輸出制限などがあります。中国が米国企業を標的にすることも考えられます。
abrdnでは中国は景気刺激策を拡大すると予想していますが、それが関税による経済的ショックを完全に打ち消すことや、世界の経済成長に大きな弾みを付けることはないでしょう。(Bob Gilhooly、Senior Emerging Markets Economist、abrdn)
中国を除く新興国
米国の新たな政策は短期的に市場のボラティリティの上昇を招く可能性があります。また、新興国の中央銀行に影響を及ぼし、インドネシアなどで利下げサイクルを頓挫させる可能性があります。
関税、米国の移民規制、制裁、軍事関係の影響がより明確になるのに伴い、新興国の中で勝ち組と負け組が明らかになると思われます。
貿易が主な焦点になる見通しで、ベトナムやマレーシアなど一部の新興国は、中国のサプライチェーンに緊密に組み込まれているため、苦戦する可能性があります。一方、インドなど他の国は恩恵を受けるかもしれません。
abrdnは、新興国では金融緩和サイクルが予想されるものの、各国・地域間で金融政策に乖離が生じると考えています。ブラジルのようにインフレ問題を抱える国は、利下げがより難しくなるでしょう。
最終的には、米国が中国への依存を減らす中で、他の新興国が次第に恩恵を受け、第1次トランプ政権における勝ち組の一部が引き続き利益を得ると考えられます。(Michael Langham、Economist、abrdn)
メキシコ
メキシコは米国の通商政策と移民政策の変更から影響を受けやすい国であり、両国で新しい指導者が選出されている状況では特にそう言えます。
メキシコはトランプ氏が掲げる中国からのデカップリング戦略を追い風に、米国の最大の輸入相手国となりました。しかし、これは米国が貿易規制を強化した場合、メキシコが大きな打撃を受けることも意味します。
トランプ氏の関税や移民の送還に関する強硬な発言は金融市場を動揺させ、投資に影響を及ぼすとみられます。しかし、こうした不確実性があるとはいえ、abrdnでは、トランプ氏は中国に照準を合わせる可能性が大きいと見ています。このため、メキシコは大規模な貿易制限を回避できると考えられます。
メキシコは米国のバリューチェーンに組み入れられていることで、ニアショアリングの取り組みから利益を得る可能性があります。もっとも、大統領に新たに就任したシェインバウム氏は、前大統領と同じような信頼関係をトランプ氏と築けないかもしれません。また、新大統領の改革課題は、外国人投資家に懸念を抱かせています。(Tettey Addy、Emerging Markets Economic Analyst、abrdn)
ユーロ圏
ユーロ圏は来年、主にドイツとフランスで大きな政治リスクに直面するでしょう。
ドイツでは、連立政権の崩壊に伴う解散総選挙によって、赤字支出を制限する財政ルールである「債務ブレーキ」の将来を巡る不透明感が高まっています。債務ブレーキは見直しが予想されていますが、詳細は不明であり、国内的な制約と欧州連合(EU)による制約があるため、財政拡大は小幅なものとどまるとみられます。
フランスの財政問題はより深刻で、バルニエ政権の崩壊が財政再建の取り組みをさらに困難にしています。加えて、EU・米国間の貿易関係にもリスクがあります。トランプ氏の関税の脅しは交渉手段に過ぎないかもしれませんが、交渉が行き詰まった場合、景気後退に陥る重大なリスクを抱えています。
そのため、abrdnでは欧州中央銀行(ECB)はこうした問題に対応し、金融政策を迅速に正常化すると予想しています。(Felix Feather、Economist、abrdn)
日本
日本の成長は、財政措置に支えられた個人消費の拡大や実質所得の増加を背景に底堅さを示しています。
2025年は貿易摩擦のために外需が試練に直面する恐れがあるものの、日本は過去には交渉によって関税を免除されています。政治的安定も極めて重要になる見通しで、目先の参議院選挙が注目されます。
総合インフレ率が低下している一方、コア・サービス価格上昇率は落ち着きを見せており、労働組合が5%の賃上げを見込む中で賃金伸び率の見通しは明るくなっています。
円安は財価格を押し上げ、日銀に金利変更の余地を与えています。abrdnでは、日銀は2025年1月に政策金利を0.25%引き上げて0.5%にすると予想していますが、相場に大きな影響はないと見ています。
また、日本株は力強い構造的見通しに支えられており、特にロボットや半導体のグローバル・バリューチェーンにおける日本の役割から恩恵を受けています。(Sree Kochugovindan、Senior Research Economist、abrdn)
英国
リーブス財務相が2024年10月に発表した予算案は支出と投資の財源として課税と借り入れを大幅に拡大するものであったため、債券利回りが上昇し、政治にも影響が及びました。さらなる増税や借り入れを回避することが明言されていますが、この発言の信頼性には疑問が残ります。
リーブス財務相の新たな財政ルールには間違いを犯す余地がほとんどないと言えるでしょう。借り入れコストの上昇や経済成長の鈍化が起こった場合、現在の財政計画ではこれらのルールを満たせなくなる可能性があるためです。次の予算案が発表される2025年終盤までに、財政の安定を維持するための追加措置が必要になるかもしれません。
さらに、現在の支出計画が持続不可能になり、増税につながることも考えられます。財政ルールは改定される可能性があるものの、こうした改定は金融市場の信頼を試すことになるでしょう。(Luke Bartholomew、Deputy Chief Economist、abrdn)