30年ほど前、大学の土木工学部に入ったばかりの私に「コンクリートの教授」は、すべての人の生活の質を向上させるうえでインフラ投資がいかに重要であるかを熱心に教えてくれようとしました。
そこで、新年に向けて、重要であるにもかかわらず、見落とされがちなこの資産クラスを改めて考察し、短期的な動きを振り返ります。
私は世界史レベルの壮大な物語について話をするのが好きですが、変化につながる、より平凡な事について議論することも同様に重要だと考えます。
資金の出し手を含めたインフラ投資の動向は、目に見えるところとそうでないところで今後1年、あるいはその後2、3年先に何が起きるのかを具体的に示してくれます。
なぜ今なのか
2024年は、100カ国以上で国政選挙が行われ、世界人口の半数以上が投票しました。
世界中で新政権が本格的に動き出しています。選挙で勝利した政党の多くは、大型インフラ投資の拡充を選挙公約で前面に出して有権者に訴えていました。
その背景には、一握りの注目すべき例外を除いて、ほとんどの国でインフラ整備が無視されてきた歴史があります。多くの場合、指導者を行動に駆り立てるきっかけとなっているのは気候変動危機です。
多くの国は、問題の解決に取り組み始めており、その一環であるエネルギー移行に欠かせない公共交通機関の電化や送電網の整備への投資を加速させようとしています。同時に、病院、道路、水道施設などの整備も進められています。
abrdnでは、そうしたインフラ投資計画は早期に実行に移され、インフラ開発が今後数年に加速すると期待しています。
政府の役割
世界全体の年間インフラ支出は2025年に9兆ドルを超えると予測されています。これは、とても民間部門や政府部門が単独で調達できる金額ではありません。
したがって、政府および選挙で選ばれた議員の役割は、まずインフラ支出に必要な国内体制を整備し、計画を策定することです。次に、成長を促進するために民間投資を誘致する必要があります。
最近の例としては、米国の「インフレ削減法」、中国の「グローバル開発イニシアティブ」、フランスの「復興計画」を挙げることができます。
英国では、2024年7月に発足した労働党政権が「国富ファンド」を早々に創設しました。その主な目標は以下のとおりです。
- 気候変動への取り組みおよび地域・地方経済の成長を促進
- プラスの経済的利益を生み出す永続的な組織の創設
- 民間資金の活用
民間資金の種類
インフラ投資の将来が官民パートナーシップ(PPP)にかかっているとすれば、その民間資金とはどのようなもので、投資家は何を求めているのでしょうか。
本稿では、民間部門の資金の出し手として年金基金、保険会社、個人投資家の3つの投資家層を取り上げます。
これらの民間資本の特性はそれぞれ大きく異なるため、インフラ投資は多様な要件を満たす必要があります。
年金基金
年金基金は、長期のリターンを追求する巨大な資産を管理しています。例えば、公務員退職年金のようないくつかの世界大手の基金では何兆ドルもの資産を運用しています。
年金基金は、リスクと運用期間の違いによって、オープン型確定給付年金(DB)、クローズド型確定給付企業年金(DB)、企業型確定拠出年金(DC)の3つのタイプに分類されます。
- オープン型確定給付年金(DB):これらの年金基金では、長期の年金債務が発生し続けます。国によっては、英国の地方公務員年金や米国の従業員退職年金のように政府による暗黙の支援があります。長期のリスクを管理し、年金加入者の生活と働く環境の向上をさせる可能性があります。
- クローズド型確定給付企業年金(DB):これらのプランは、歴史的にインフラ関連株に投資をしてきました。しかし、その運用の時間軸と投資見通しが短期(その結果は、年金債務の保険会社による買い取り、資産の枯渇など)という特性は、インフラ投資の長期的な特性と矛盾します。
- 企業型確定拠出年金(DC):これらは、機関投資家資金源として急速な拡大を続けています。英国におけるその資産残高は2031年には1兆1,000億ポンドを超えるという予測があります。英国で現在普及している枠組みの配分比率はコスト効率を重視し、インフラなどの高コスト資産ではなく、低コストの資産クラス、特にグローバル株式が高くなっています。一方、オーストラリアの私的年金「スーパーアニュエーション」ファンドは、インフラ資産を長期配分に組み入れており、多くの場合、その資産管理とリターンの拡大を実現するために内部チームを擁しています。
保険会社
世界銀行は2021年に、世界の保険会社が保険料による総保険料収入の5%をインフラ投資に振り向ければ、年間投資ギャップのほぼ半分が埋まるという試算を発表しました。
それより2年前のデータでは、保険料収入全体のインフラ投資への平均配分率は、他の機関投資家と比べると著しく見劣りするわずか1.5%でした。平均配分率は、2022年には2.5%に増え、2024年時点では、保険会社の60%がクリーン・エネルギー関連インフラ投資を主要なテーマ投資の対象に挙げています。
インフラ投資は安定的かつ長期的で、時にはインフレに連動したキャッシュフローをもたらすことから、クリーン・エネルギー関連インフラ投資に焦点を合わせることは妥当だと思われます。そうした特性から、インフラ投資は保険会社の資産・負債マッチング(ALM)にとって不可欠なものとなっています。インフラ投資は生命保険や年金保険などの社会的に不可欠な商品の裏付けとなる長期投資を提供しています。
保険会社のインフラ資産志向は債券以外にも及んでいます。生命保険会社のおよそ33%と損害保険会社の26%は、今後2年間にインフラ関連株への資産配分を増やす予定を示しています。
さらに、規制環境も保険会社によるインフラ関連の債券および株式への投資の動機付け要因となっています。現在アジア諸国で適用が進められているソルベンシーIIや国際資本基準(ICS)などの規制枠組みは、適格資産となるインフラ投資について資本優遇措置を認めています。
個人投資家
株式市場、特にテクノロジー株に資金が著しく集中している市場は、引き続き好調ですが、株価が妥当な水準に達したとみられることから、個人投資家はリスク分散のためにグローバル・インフラ株を模索しています。
インフラ関連セクターのテーマやトレンドは、主要テクノロジー銘柄の株価を押し上げているテーマやトレンドと一致しています。例えば、データセンターはNvidiaにとって、通信電話の電波塔はAppleとTeslaにとって、発電設備と送電網はMicrosoftにとって、それぞれ不可欠です。
グローバル・インフラ株への投資は、個人投資家に人口知能(AI)の発達を支える有形資産への機会を提供します。結果として、社会の発展、都市の近代化、気候変動影響の軽減への貢献につながります。
インフラ投資の種類と投資家グループ
- デットコンセッションおよびコア資産に焦点を当てたプロジェクト・デットおよびコーポレート・デット(一般的には弁済期間は長期)。固定金利、インフレ連動、変動金利がある。
- 地方債公共利益をもたらす経済社会インフラ・デット。通常、弁済期間は長期で固定金利、割賦償還型。
- コンセッション工場などの跡地を再開発するブラウンフィールド・プロジェクトおよびゼロからインフラ開発するグリーンフィールド・プロジェクト(PPP、P3などと呼ばれる)。
- コア/コアプラス欧州の中小型のコアおよびコアプラス・インフラ資産。
- バリュー・アッド北米を中心としたプライベート・エクイティ型インフラ投資戦略。
- 上場株式インフラ関連上場株式の保有。
まとめ
変化を続ける世界はさらなるインフラを必要としています。民間資本はその構築で重要な役割を果たします。
2025年、そしてその先も、資本、リスク、リターンについて様々な目標を持つ、より多くの投資家がこの資産クラスにさらに多くの資産を配分することが予想されます。
投資家の多様な目標は、低リスク・低リターンのインフラ・デットから高リターン・高リスクのインフラ関連上場株式まで投資需要に影響を与えます。
全体的に見ると、計画の進捗がより明確かつ迅速なプロジェクトほど投資のリスクの軽減とリターンの向上につながります。
※本稿に記載した銘柄及びインフラ投資の種類は例示であり、インフラ投資の説明のみを目的としているもので、将来の運用成果を示唆するものではなく、また、これら特定の銘柄や投資商品等の勧誘や推奨ではありません。