ドナルド・トランプ氏の大統領復帰と共和党の上下両院制覇を受けて、米国内外で大幅な政策変更が行われるのは必至です。

新興国市場、なかでも米国の金融政策、米ドル高、国際資本の流れの影響を受けやすい国は、しばしば型破りな政策決定を行う次期米政権がもたらす影響に警戒を強める必要があります。

新時代を迎える米国が打ち出してくる政策は依然として不透明です。2期目のトランプ政権が追求する「アメリカ・ファースト」政策が具体的にどのようなものになるかは、新政権の顔ぶれに大きく左右されるとみられます。さらに、トランプ氏の脅威のどれが本物なのか、あるいは単に譲歩を引き出すための交渉戦術かを見極める必要があります。

多くの分析は、共通して①米国のインフレ再燃懸念、②米政策金利(フェデラル・ファンド金利)の高止まり、③対立的な通商政策の復活を指摘しています。

3項目とも、新興国市場の多くには悪いニュースです。新興国では、中央銀行による利下げが制約され、政府は不公正な貿易慣行に対する批判にさらされます。そうした状況は、新興国資産価格に逆風となる可能性があります。

したがって、政治および市場の圧力を回避することは困難ですが、時間が経つにつれて、多くの新興国が勝ち組と負け組に分かれるのは避けられないと思われます。これは、新興国市場の多様性の1つの特徴です。

他国の問題など知ったことではない

トランプ次期大統領が公約している減税や規制緩和など「経済成長推進」および「市場寄り」の政策は、米国のインフレと金利の上昇につながる可能性があります。

米金利が上昇すれば、新興国への資本流入が減少し、新興国に対する通貨安圧力も増すため、新興国の中央銀行による利下げは制限されます。

メキシコやインドネシアなど、米連邦制度理事会(FRB)の金融政策と米ドル高に敏感な国ほど、大きな圧力に直面する可能性があります。ブラジルを含む、大幅な財政赤字を抱える国の場合、第2次トランプ政権がもたらす新しい状況を乗り切ることは簡単ではないでしょう。

大逆転

これまで明らかになっている新政権の貿易政策、とりわけトランプ氏が好きな言葉であり、脅しのために頼りになるツールでもある「関税」によって、新興国は複雑かつ予測困難な状況に置かれると予想されます。

とはいえ、トランプ政権の産業寄り政策が、世界経済の伸びと市場センチメントの改善を通して、多くの新興国に恩恵をもたらす可能性は依然あります。

一方、貿易紛争の相手が、中国にとどまらず他の主要な貿易相手国や伝統的な同盟国に拡大すれば、様々な新しい状況が生まれることも想定されます。米国と経済的に深く結びついているメキシコは特に脆弱ですが、米国が中国から離れ、多様化を優先すれば、最大の恩恵を受けるかもしれません。

例えば、2026年に予定されている米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直しは、地域貿易関係の今後を左右する分岐点になるでしょう。トランプ氏は、カナダとメキシコに対して、輸入を制限するためではないと断ったうえで、不法移民の流入防止のため両国に追加関税を課すと表明しています。

新興国の中では、大幅な黒字国(メキシコ、ベトナム、韓国、台湾など)や、中国製品の再輸出国として批判にさらされる恐れのある国(ベトナム、マレーシア、メキシコ)、米国製品に高関税を課している国(ブラジル、インドなど)は市場圧力に直面する頻度が高くなる恐れがあります。

きしむ中国経済

1期目のトランプ政権は中国製品に制裁関税を課しました(バイデン政権はそれを継続しました)。2期目を迎えるトランプ氏は中国に対する関税を60%ないしそれ以上に引き上げることを明らかにしています。トランプ氏が本気かどうかはもう少し待つ必要があります。

第2次貿易戦争によって、世界2位の経済大国である中国は停滞している成長をこれまで以上に下支えすることを強いられます。中国景気が浮揚すれば、貿易戦争のショックが他の新興国に拡大する状況は回避されるでしょう。

多国籍企業は地政学的緊張への防御策としてグローバル・サプライチェーンの再構築を進めています。時間が経てば、多くの新興国がその恩恵にあずかることが予想されます。リスクの少ない生産代替地として、特にインドとメキシコは優位な位置にあるでしょう。

ドリル・ベイビー・ドリル(石油の大量生産)

第2次トランプ政権のサステナビリティに対する姿勢も新興国に別の複雑性をもたらしています。トランプ氏は大統領選で、地球温暖化対策の世界的枠組み「パリ協定」からの米国の再離脱とインフレ削減法(IRA)の撤廃を掲げてきました。

トランプ新政権は、連邦政府用地における石油とガスの探査の拡大、米環境保護庁の弱体化、クリーン技術の輸入関税の引き上げに踏み切ると予想されています。サステナビリティの推進について、米国は世界のリーダーにはならないでしょう。

米国以外の国は、米国のパリ協定への参加、不参加に関係なく、サステナビリティ推進計画を前に進めることで合意しています。しかし、米国が先進国から途上国に対するエネルギー移行支援資金計画への資金拠出を拒み、気候変動政策を転換すれば、新興国が受ける気候変動関連の被害は拡大します。

投資家の反応

新興国資産の多様性と、新興国が勝ち組と敗け組に分かれる可能性を考えると、トランプ2.0が新興国資産の投資家にとって良いのか悪いのかを一言で説明することは不可能です。

例えば、abrdn(アバディーン)の株式部門は楽観的です。同部門のポートフォリオに基づくと、新興国企業の収益見通しが引き続き堅調であることから、新興国株式のバリュエーションも魅力的な水準を維持しています。

一方、新興国債券の見通しはもう少し慎重になっています。米大統領選後、ハードカレンシー建てのフロンティア債券は底堅さを示しています。現地通貨建て債券は、貿易保護主義の高まりと米ドル高の懸念から逆風に直面しています。

インフレの鈍化により、少なくとも中南米を中心とする多くの新興国で債券の実質利回りは高止まりし、新興国の中央銀行には慎重な利下げを行う若干の余地が生じることを示唆しています。

新興国社債はトランプ2.0の嵐を比較的順調に乗り越えているように見えます。対国債スプレッドはタイトな水準で推移しています。

新興国社債は過去の国内経済低迷期には国債をアウトパフォームしており、多くの新興国企業が米国の保護主義の悪影響を受けないことを示唆しています。

まとめ

第2次トランプ政権が新興国にもたらす影響は、トランプ氏自身と同様に複雑です。特に貿易とサステナビリティの面では大きな課題が予想されますが、そうした変化に対するレジリエンス(頑健性)の中に見出せる成長機会もあるでしょう。

世界的に大きな変化が予想される中で、変化の波に乗ることができる新興国、とりわけサプライチェーンの中国離れに伴う多様化に関わる国は恩恵を受ける位置にあるでしょう。