プライベート・アセットのセクター別見通し

米国の底堅い成長とインフレ率の低下はポジティブな供給ショックを反映していますが、その効果はほぼ薄れてきました。2024年に最も起こる可能性が高いシナリオは、景気減速、そしてその後の緩やかな景気後退です。欧州諸国はすでに景気が減速しています。実質所得の伸びによって減速の程度は抑えられていますが、abrdn(アバディーン)では2025年半ばまで減速は続くと予想しています。ほとんどの中央銀行は利上げサイクルを終了しており、2024年にはインフレの後退が進む中で利下げが開始されるのは必至です。中国では、金融緩和が奏功して経済活動は足下で安定に向かっていますが、長期的な経済的逆風に直面している状況は変わりません。新興国経済は、インフレ減速の恩恵を受けて金融緩和サイクルに入ろうとしているところです。プライベート・マーケットの分析では、主要セクターの最新動向の洞察とマクロ経済の変化を考慮することが重要です。「プライベート・マーケット・ハウスビュー」(英語でのみご提供)のプレゼンテーションは こちらをご覧ください。

プライベート・エクイティ

高金利環境下、根強いインフレ圧力を背景に欧州と米州双方のプライベート・エクイティ(PE)市場におけるディール需要、中でも投資資金を回収するためのエグジット(出口)戦略需要の後退が続いています。多くのジェネラル・パートナーは、バリュエーションの低下を回避し、将来の好転を待とうと、エグジット戦略の先送りを余儀なくされています。

2023年第3四半期のバリュエーション・マルチプル(企業価値評価倍率)からは、北米・欧州全体でバリュエーションの修正が穏やかなペースで進んでいることが読み取れます。セクター別に見ると、マルチプルの最高値からの下落幅が最も大きかったのは金融と消費、現在も上昇を続けているのはエネルギーです。2023年に向けて一定水準を堅持していたテクノロジーのマルチプルは市場環境の悪化の影響を受けました。それでも、テクノロジーが他のセクターに比べて割高である状況は変わっていません。

abrdnは欧州および米州のミドルマーケット(中堅・中小企業)が都市部の消費拡大に貢献するとの見方を維持しています。そのため、リセッション(景気後退)の影響を受けにくく、世界的な長期トレンドに沿う成長が見られるヘルスケアと情報技術(IT)の両セクターへの投資機会を引き続き追求していきます。ポートフォリオの組入企業のバランスシートの価値を引き出した実績のある上位4分位のPEマネジャーに注目することが重要です。

プライベート・クレジット

プライベート・クレジットの需要は、伝統的な貸し手の後退を受けて、堅調に推移しています。リターンの増大、スプレッドの拡大、マクロ経済動向との相関性の低さを考慮すると、プライベート・クレジットのリスク・リターンのダイナミクスは非常に魅力的なものとなっています。プライベート・クレジット資産については、ダウンサイド(下振れ)リスクを十分に考慮して選択することが重要です。

デフォルト率は過去の標準より依然として低い水準にあります。しかし、多くのプライベート・クレジット・マネジャーは世界金融危機以降、本格的な試練に直面したことがないため、デフォルト率は今後高まることが予想されます。さらに、市場のダイナミクスは前回のサイクルとは根本的に異なります。

市場の混乱は好機をもたらしています。貸し手はより強力なコベナンツを要求し、魅力的なリスク調整後リターンでディールを実行できる立場にあります。プライベート・クレジットにおいて選別眼が引き続き鍵となります。借り手の経営破綻・不振によるディストレス(財務的困窮)やデフォルト率の上昇を受けて、質の高いディールの重要性が増しています。

インフラストラクチャー

2023年の世界インフラ市場は、年間を通じて複数のマクロおよびミクロ面でのショック要因に見舞われました。いくつか例を挙げると、金融引き締めに伴う資金調達の鈍化、資金調達コストの増加、地政学的リスクの高まり、バリュエーション圧力などが挙げられます。

市場がボラティリティに翻弄される中にあっても、コア・インフラ資産は耐性を示し、インフレに対するプロテクション、コスト転嫁メカニズム、潤沢なキャッシュフローをもたらしました。例えば、厳しい市場環境でも成長が続くエネルギー移行セクターでは大型ディールが成立しています。米国で成立したインフレ抑制法(IRA)は、インフラ支出(投資)に追い風をもたらしました。例えば、水素、二酸化炭素回収、輸送などは構造的に魅力的な投資機会です。欧州では、再生可能エネルギー投資の拡大が域内でのコモディティ供給やエネルギー自給率の向上をもたらすことが期待されます。世界的には、マクロ経済面の逆風とデジタル化の機会増大の中で、デジタルおよび通信インフラで長期的なブームが続いています。

不動産

世界の不動産市場は、今般の低迷の中でも着実に拡大しています。不動産利回りは、金利上昇と債務コストの上昇に応じて再調整してきましたが、そのスピードは世界金融危機後の調整時をはるかに上回っています。ほとんどの地域では、価値はわずか2-3四半期の間に15-30%下落しましたが、そうした再評価段階は終わりに近づいていると考えています。

不動産利回りスプレッドは、リスクフリーのベンチマーク対比で依然としてタイトですが、徐々に拡大に向かっています。ただし、十分な非流動性プレミアムをもたらすまでには至っていません。

欧州で不動産のリプライシング(価格調整)が最も活発に進んでいるのは物流セクターです。セカンダリー市場のオフィス・セクターでもリプライシングの動きが広まっています。北米では、すべてのセクターでキャップ・レートの拡大が鈍化し始めています。米国では、オフィス・セクターのデフォルトが増加しており、一部でみられた割高なバリュエーションはより現実的な水準まで低下しています。一方、産業および物流セクターでは設備の更新が広範囲で進んでおり、強いマクロ環境と相まって不動産価値を下支えしています。

アジア太平洋地域では、大半の市場で不動産利回りは2021年末以降ほとんど動いていません。そのため、2024年にはより明確な利回りシフトが起こる可能性が高まると考えられます。多くの市場で物流物件の利回り拡大の可能性が高まっていますが、物件評価額への悪影響は賃料の伸びにより相殺される見通しです。

天然資源

世界のエネルギー市場の動向は天然資源投資全体に大きな影響を及ぼします。天然資源投資の原動力は引き続きエネルギー価格であり、その傾向は今後も変わらないでしょう。最近の中東紛争により、2023年6月から低下傾向が見られていた不確実性が再び高まっています。再生可能エネルギーへの移行が進むにつれて、再生可能エネルギーの生産に不可欠である一部の金属およびそれらに関する鉱業を対象とする投資戦略の需要も増加しています。

再生可能エネルギー開発に必要な資金調達の増加が続いていますが、脱炭素化への取り組みは数年を要します。興味深いのは、北米の再生可能エネルギー投資への資金流入が欧州に追いつきつつあることです。その主な理由はIRAの施行です。欧州では、低炭素経済への移行を反映して政府のインフラ支出が増加すると予想されています。

エネルギー需要は2024 年に入っても持続する可能性が高いものの、それがいつまで持続するかは不透明です。しかし、低コストの再生可能電力の出現や炭素取引の拡大と並行して、天然資源全体への投資機会が今後も続くことは確かです。天然資源投資の対象には、温室効果ガス排出量の実質ゼロおよび排出量削減への世界的な取り組みにおいて大きな役割を担う木材も含まれます。「プライベート・マーケット・ハウスビュー」(英語でのみご提供)のプレゼンテーションは こちらをご覧ください。

出所:
abrdn、2023年12月
Bloomberg、JLL REIS、2023年9月
LSEG Datastream、abrdn、CBRE、2023年12月
MSCI RCA、Ice BofA Indices、2023年9月
Bloomberg、 JLL REIS、2023年6月
Pitchbook、2023年9月