ここ数年で、地政学的緊張が高まり、異常気象が頻発し、社会経済的課題が増加しています。リスクの増大、消費者需要の変化を受けたコストの上昇、環境・社会・ガバナンス(ESG)要素への規制拡大、異常気象を直接的な原因としたビジネスの混乱などを通して、企業はすでにその影響を実感しています。こうした事象はサプライチェーンや事業継続計画に影響を及ぼしているほか、データやガバナンスをめぐる懸念も生じています。これはプライベート・マーケットで事業を展開する企業にとって何を意味するのでしょうか?abrdn(アバディーン)はサステナビリティ(持続可能性)に関連する潜在価値の開放を目指します。

企業へのアンケートの実施

長期投資となる性質を持つプライベート・マーケットは、投資機会の発掘にあたってテーマ別のアプローチを検討します。これは、短期的な戦術的投資および長期的な市場トレンドの両方に応えるアプローチです。abrdnは、サステナビリティをテクノロジーや人口動態と並ぶメガトレンドとして認識しています。

そのため、abrdnではESG 慣行を促し、ジェネラル・パートナー(GP)との建設的な対話を可能にするESGアンケートを実施しています。マネジャーのESG要素に対するアプローチとその遂行に関する設問を含み、これがabrdn におけるESGプロセス構築とデータ収集の最初のステップとなります。アンケートの内容はデータの入手度合いと質、そして市場基準の向上に応じて継続的に改良・更新していく方針です。

ESGアンケートの実施には3つのメリットがあります。1つ目に、プライベート・マーケット・マネジャー全体のESG進捗状況をモニタリングすることが可能です。これにより、独自のデータを取り入れた新たな投資判断や、より適切な企業のESGパフォーマンスの評価を行います。2つ目に、ESGへの取り組みと業界における進捗状況を総合的に把握することが可能となります。また、投資先企業内におけるESG議論を促進し、足元の重要な懸念事項の特定・監視に役立ちます。3つ目に、企業のESG方針と報告基準を浮き彫りにします。それを元に、詳細な専門的評価や投資前後の管理が必要となる重大な問題点や機会の有無を判断します。

アンケートはまた、保有期間中の報告で取り上げうる重要なESG要因を識別する材料にもなります。将来的に、GPやポートフォリオ組入企業の現在のESGへの取り組み状況を評価し、改善を図るのに利用できる情報です。リミテッド・パートナー(LP)にとっては、ポートフォリオ情報の透明性と比較性向上のメリットをもたらします。

アンケートの設問は、サステナビリティ会計基準審議会(Accounting Standards Board)の枠組み、インベスト・ヨーロッパ(Invest Europe)のプロフェッショナル・スタンダード・ハンドブックと責任投資目録(Responsible Investment Bibliography)、機関投資家リミテッド・パートナー協会(Institutional Limited Partners Association)のガイドライン、気候関連財務情報開示タスクフォースなど、さまざまな団体の基準を参照しています。

ESGハンドブックの作成

アンケートはサステナビリティ要素を広く網羅しています。結果は企業の属する国・地域、セクター、エクスポージャー、資産クラスによって異なるため、あくまでも企業の既存のデューデリジェンスの補完として使用するにとどめます。abrdnのESGアンケートは選択回答式ではなく、企業に詳細な情報を求めます。回答はESG慣行についてGPとの有意義な対話の糸口となります。

他の資産クラスとは異なり、プライベート・マーケットは細やかな検討が求められるため、標準化されたESGレポートでは不十分であり、より包括的なアプローチでESG評価を行うことが必要です。アンケートはプロセスの標準化とESGの進捗状況の監視を目的としたものですが、ESGの成果は定量化しにくく、効果には限界があります。データに関する懸念をめぐる規制環境の変化も限界が生じる要因です。そのため私たちは、アンケートを優れたESG慣行を展開するためのハンドブックとみなしています。

abrdn のサステナビリティ・アンケートは実需から生まれました。ESG要素に関する規制の強化、企業のESG慣行に関する詳細情報に対する顧客の需要の高まり、プライベート・マーケットのESGリスクと投資機会についての充実した情報を求める声などが背景にあります。

主な投資課題

ESG情報の透明性向上には数々の課題があり、プライベート資産の正確なESGデータの比較は広く課題とされています。

  • 適切なESGデータへのアクセスと報告基準
    現在の開示基準は一貫性に欠けており、しかも開示は任意です。これが信頼性の高いESGデータの入手をさらに難しくしています。包括的なESG情報の開示はプライベート企業の任意であるため、データの精度と質には常に大きな差異が生じます。明確なサステナビリティ報告基準を設けることで、信頼性は大きく向上します。abrdnはアンケートを実施することでプロセスの標準化を図っています。ESG方針の進度は企業によってまちまちであると認識しており、そのためアンケートは可能な限り詳細な情報を引き出すよう設計されています。
  • 社会または環境面の成果を正確に定量化する能力
    ESGの評価測定が注目されているということは、言い換えれば、複雑な社会・環境要因を正確に把握することは未だ困難であるということです。計測は必要であり、また避けられないものですが、数値の解釈には注意が必要です。また、どうすればESG課題に効果的に取り組めるかを企業が理解していることも重要です。
  • 規制が明確でない
    プライベート・マーケットの規制はまだ始まったばかりです。欧州連合(EU)はサステナビリティ目標と規制に迅速に取り組む姿勢ではあるものの、規制制度について広範な合意が得られていない点や、報告への取り込みについては未だ懸念があります。運用成果を慎重に管理するためにはESG関連法に関する法的義務を明確にすることが極めて重要です。ほかにも、グリーンウォッシングやプライベート・マーケットにおけるベンチマークの欠如など、主たる懸念要因は依然として曖昧です。基準の向上に伴い、これらがより明確化されることを期待しています。

おわりに

サステナビリティはabrdnの投資哲学における中核的要素です。私たちは引き続き、プライベート・マーケット業界におけるベストプラクティスと文化としての受け入れに対する意識向上を推進していきます。これは将来的に前向きな変化へとつながるでしょう。マネジャーも投資家も、ESGインテグレーションを新たな投資要件として見るのではなく、むしろ経営とビジネスの価値を保全・最適化するための近代的なレンズとしてとらえるべきであると、abrdnは考えます。