さまざまな市場環境があいまって、ファンド・ファイナンスをキャッシュやマネー・マーケット・ファンドの代替資産として検討する好機が訪れています。

ファンド・ファイナンスとは、プライベート・エクイティ、プライベート・デット、インフラストラクチャー、不動産などのプライベート・マーケット投資ファンドへの融資を指します。ファンドの投資家だけでなく、マネジャーやジェネラル・パートナー(GP)にもメリットがあります。

ライフサイクルにわたる資金支援

ファンドのライフサイクルのさまざまな段階でGPが投資活動の資金を賄ったり、ポートフォリオ企業を資金支援するためには流動性が必要です。

ファンド・ファイナンスの一種であるサブスクリプション・ライン・ローンは、投資活動のつなぎ資金に利用するファンドへの融資形態です。投資家資金の出資履行を遅らせることが可能で、投資家にとってはキャピタルコールが行われるタイミングの不確実性が低減されるため、より効率的なキャッシュ運用が可能となります。

例えば変動金利資産など、利下げ転換に対してある程度のプロテクションがある、利回りの魅力的な資産を戦略的に組み入れる機会が生じていると考えます。

高インフレと金利上昇で利回りが上昇する中、abrdn(アバディーン)は、例えば変動金利資産など、利下げ転換に対してある程度のプロテクションがある、利回りの魅力的な資産を戦略的に組み入れる機会が生じていると考えます。

理想的な期間は?

ファンド・ファイナンスの「クーポン」は、参照金利の変動に応じてリセットされます。金利が頻繁にリセットされると変動金利ローンのデュレーションはゼロ近辺となります。参照金利の上昇が続くと裏付けのローンのクーポンも上昇するため、投資家のインカムが増加します。

米国の3カ月担保付翌日物調達金利は足元で5.36% [1]、投資適格の短期サブスクリプション・ライン・ファシリティのオールイン利回りは約7.36%となります。

十分な資本

重要なことは、ファンド・ファイナンスにおいて、利回りの上昇は必ずしも信用リスクの悪化にはつながりません。なかでもサブスクリプション・ライン・ローンは短期の投資適格案件が大半のため、信用リスクの対象は質の高い機関投資家に分散しています。

さらに、多くのサブスクリプション・ライン・ファシリティの特徴は、超過担保-すなわち潜在的な損失額以上の資金的裏付けがある、弁済順位の高いシニア証券、そして財務コベナンツです。ファンドが運営危機に陥った場合に優先的に弁済されるシニア債務は、デット投資家にとって最善の防御策のひとつです。

信用リスクの分散は、サブスクリプション・ラインと他の資産クラスとの低相関性に匹敵するメリットであり、ポートフォリオに潜在的な分散効果をもたらします。

拡大する市場

こうした市場背景から、世界のサブスクリプション・ファイナンスの需要は2022年末時点で年間9,000 億米ドル超に達しており[2]、abrdnは今後も需要が拡大すると考えています。

プライベート・マーケット・ファンドを含むオルタナティブ資産への投資配分は拡大が続いており、2022年のプライベート・エクイティ・マーケットの資金調達額は世界で推定1兆3,000億米ドルに達しました[3]。これまでは主に大手銀行がファンド・ファイナンスを行ってきたものの、当局による資本規制が強化される中、大手銀行だけで需要に対応することは困難となっています。多くの銀行が自社の融資限度額に達しており、ファンド・ファイナンス・ファシリティのシンジケート化が余儀なくされています。

そのため銀行は、自社の資本要件を満たしつつプライベート・ファンドのGPへ資金支援を継続できるよう、アセット・マネジャーなど融資パートナーに協働を持ちかけています。

魅力的なプレミアム

最近の米欧銀行の破綻も、ファンド・ファイナンス市場の供給を制限する要因となっています。その結果、GPや資金スポンサーは銀行のカウンターパーティ・リスクに対してさらに敏感になっており、銀行以外の貸し手と協調することでリスク分散を図ろうとしています。

供給の縮小はファンド・ファイナンスの提供者に有利となり、より魅力的な流動性プレミアムの獲得が可能となりました。2022年上半期以降、短期の投資適格融資案件の利ざやは約50ベーシス・ポイント上昇しています [4]。

アセット・オーナーに最適

ファンド・ファイナンスは、資本効率の高い運用を目指すアセット・オーナーに最適な資産クラスです。高い信用力、期間の短さ、潜在的な利回り向上、他資産のリターンとの無相関、低いボラティリティ、構造的なプロテクション、負債とのマッチングに利用可能なオーダーメイドのキャッシュフローなどがその理由です。

しかし、信用引受やドキュメンテーションは複雑であり、またそれに伴うデューデリジェンスやキャッシュ管理には時間を要するなど、投資管理は容易ではありません。

機関投資家は、ファンド・ファイナンスの経験、融資と流動性の広範な管理能力、為替ヘッジやオペレーション、法務、ストラクチャリングの専門知識を備えた運用会社を採用するという選択肢があるかもしれません。市場とのコネクションの広いマネジャーであれば、幅広い期間や価格設定オプションを備えたさまざまな通貨のローンの調達や、ESGなど財務以外の目標を満たすことが可能です。

融合による効果

このように、投資機会が増加し、リスク調整後リターンの魅力が増している今こそ、ファンド・ファイナンスの好機であると考えます。ファンド・ファイナンスは機関投資家と運用会社双方にとっての利便性を併せ持つ大きな可能性がある戦略だとabrdnは考えます。

  1. ニューヨーク連邦準備銀行、2024年1月
  2. abrdn、2022年12月31日
  3. Cadwalader – Behind the numbers: the 2022 Fund Finance Market
  4. abrdn、2024年1月24日