ハイライト
- 平均格付けが投資適格であり、多様で成熟した資産クラス
- 需給ダイナミクスが市場パフォーマンスの追い風
- 魅力的なリスク調整後リターンを提供してきた確かな実績
- 新興国企業のファンダメンタルズはなお良好で、デフォルト率は先進国と同等
- 利回りの点で魅力的なエントリー・ポイントと、短いデュレーションがもたらす潜在的なダウンサイド・プロテクション
ますます多様化し、流動性が高まっている資産クラス
新興国社債は各地域に広く分散されており、平均格付けは投資適格のトリプルBとなっています。2010年以降、この資産クラスの市場規模は250%拡大して2兆5,000億米ドルを超えており、今では新興国ソブリン債や米ハイイールド債を上回っています。
図表1:新興国社債市場の成長(2000 - 2024年)
出所:J.P. Morgan、Bond Rador、Bloomberg Finance L.P、2024年7月31日
また、この資産クラスは国、地域、セクター、時価総額の面でますます多様化しています。地域別に見ると、アジアが依然として最大で、JPモルガンCEMBIブロード・ダイバーシファイド指数の42%を占めています。しかし、中東・アフリカの企業が発行する社債の割合が増えており、この割合は2013年の11%から2023年には20%近くまで上昇しました。同指数の構成国は59ヵ国で、そこにはジョージア、グアテマラ、ザンビアといったフロンティア市場をリードする企業も含まれています。
同指数は国別でも広く分散されており、最もウェイトの大きい中国でも7%弱を占めるに過ぎません。これに対して、MSCI新興国株式指数では中国が約24%を占めています。このように多様で分散化された資産クラスは、アクティブ投資家に潜在的な投資機会を提供します。しかし、相対的に小規模な新興国の社債発行体の中から価値を見出すためには、十分な調査リソースや確かな投資スキルを利用できることが特に重要です。
プラスのテクニカル要因がパフォーマンスの追い風
ここ数年、プラスのテクニカル要因となっているのが、新興国社債の満期の長期化とそれによる借り換えリスクの低下です。米国金利が上昇する環境で、米ドル建てユーロ債市場における新規発行は当然ながら低迷しており、代わりに新興国企業は国内市場、国内銀行、開発金融機関といった代替的な資金調達源に軸足を移しています。これらの代替的な資金調達源は、新興国企業にクレジット・プロテクションを提供し、ロールオーバー・リスクやデフォルト・リスクを軽減するのに役立つでしょう。
米ドル建てユーロ債による純調達額は、新規発行額が満期償還額を下回っているためマイナスになっており、それが需給ダイナミクスを下支えしています。これは引き続き市場に追い風をもたらすとみられ、abrdn(アバディーン)が中南米の社債をオーバーウェイトしている理由の1つです。
図表2:新興国債券による純調達額(2011 - 2024年)
出所:J.P. Morgan、Bond Rador、Bloomberg Finance L.P、2024年7月31日
新興国社債のファンダメンタルズはなお良好
新興国社債のファンダメンタルズは総じて良好であると見ています。ダブルB格債(すなわちハイイールド債)市場において、新興国社債発行企業のネット・レバレッジは2.3倍で、米ハイイールド債発行企業の3.6倍や、欧州ハイイールド債発行企業の4.5倍と比べて、好ましい水準にあります。通常、レバレッジが低いほどスプレッドは小さくなりますが、このケースには当てはまりません。ダブルB格の新興国社債の場合、現在のZスプレッド(米国債利回りに上乗せされる利回り)は245bpです。2024年8月末時点におけるダブルB格の新興国社債のZスプレッドは328bpで、これに対して米国のダブルB格銘柄は295bp、欧州のダブルB格銘柄は310bpでした[1]。
新興国社債の相対的に大きなスプレッドと良好なファンダメンタルズ(発行企業の低いレバレッジと高水準の現金準備)を踏まえ、abrdnは新興国社債と米国社債を比較する指標として「ネット・レバレッジ1倍当たりのスプレッド」を重視しています。図表3が示す通り、新興国社債の投資家は現在、米国社債を保有した場合よりもレバレッジに対して大きなスプレッドを得ています。
図表3:新興国社債と米国社債のネット・レバレッジ1倍当たりのスプレッド
出所:BofA Global Research、2024年6月30日
無論、新興国のマクロ経済リスクや政治リスクは概して米国よりも高いという主張もありますが、これは、少なくともより高いデフォルト率には反映されていません。2024年は、これまでのところ新興国社債のデフォルト率が0.8%であるのに対し、米国および欧州ハイイールド債のデフォルト率はいずれも0.6%です。また、図表4に示すように、新興国社債の過去のデフォルト率は、米国や欧州のハイイールド債とさほど変わりません。abrdnでは、2024年内から2025年にかけては、利下げサイクルがデフォルト・リスクの抑制に寄与すると予想しています。
図表4:新興国、欧州、米国におけるハイイールド社債のデフォルト率の推移
出所:JP Morgan、BofA、2024年7月
新興国社債 - 過去10年にわたり魅力的なトレード
以下に示す通り、リスク調整後リターン(すなわちシャープ・レシオ)で見ると、長期的には、新興国社債は他のほとんどのグローバル債券市場セグメントと比べて投資妙味があると考えます。
主なグローバル債券市場のシャープ・レシオ
資産クラス | シャープ・レシオ(10年) |
EM社債 |
0.47 |
米国ハイイールド社債 | 0.44 |
EMハード・カレンシー・ソブリン債 | 0.43 |
欧州ハイイールド債 | 0.33 |
米国債 | 0.25 |
米国IG社債 | 0.22 |
EM現地通貨建てソブリン債 | 0.07 |
出所:JP Morgan、abrdn、2024年6月
同時に、新興国社債はデュレーションが比較的短く、金利リスクを軽減することができます。
新興国社債はこれまで、ディフェンシブな特性を持つことが利点となってきました。例えば、「テーパー・タントラム(緩和縮小を巡る市場の混乱)」、新型コロナウイルスのパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻といった主なリスクオフ局面におけるドローダウン(下落率)は、他の新興国債券セグメントよりも小幅にとどまりました。
JPモルガンの新興国社債指数の利回りは現在6.5%を超えています(米ドル・ベース)。これは10年平均の5.7%を上回っており、マイナスの値動きによる下振れをある程度緩和する余地があります。新興国社債の健全なファンダメンタルズとプラスのテクニカル要因を考え合わせると、この資産クラスが機関投資家の間で人気を集めていることは、おそらく驚くに当たりません。こうした機関投資家の中には、伝統的に先進国市場のクレジット・エクスポージャーをはるかに重視してきた保険会社も含まれます。
総合的に見て現在の状況は?
米ドル建ての発行市場への信頼は戻りつつあると見ています。2024年前半の新興国社債の発行額は3年ぶりの高水準となりました。ここ数ヵ月にはスプレッドも縮小しており、特に投資適格の新興国社債ではしばらく見なかった水準に近づいています。
とはいえ、6.5%を超える絶対利回りは、過去と比べてなお魅力的です。良好なファンダメンタルズとプラスのテクニカル要因による追い風を考慮すると、新興国社債は、リスク調整後ベースで見ても、引き続き魅力的なトータル・リターンを提供できるでしょう。
- JP Morgan, 2024年9月