最近の力強いパフォーマンスによって名目利回りは低下していますが、abrdn(アバディーン)は、新興国(EM)現地通貨建て債券には依然としてかなりの上値余地があると考えています。

一定のリスクや銘柄を慎重に選ぶ必要性があるとはいえ、内部環境と外部環境はいずれもこの資産クラスにとってかなり明るいと思われます。

新興国の大きな利下げ余地

内部環境に関して、インフレ率は大半の新興国で概ね低下しており、いくつかのケースではすでに中銀の目標水準に達しているか、それに極めて近い水準にあります。すなわち、名目利回りは低下していますが、金利は依然として高く、低下が始まったばかりであることから、新興国の実質利回りは実際のところ、なお魅力的といえるでしょう。

無論、市場参加者は、政策金利はさらに引き下げられると予想しており、これは足元のプライシングに反映されています。それでも、以下に示すように、市場に現時点で織り込まれている2年後の新興国の政策金利は、大半のケースで政策金利の過去10年平均を上回っています。

図表1:市場に織り込まれている2年後の新興国の政策金利と過去10年平均

これは、新興国の政策金利がより景気刺激的な水準に低下する必要に迫られるシナリオを、市場が想定していないことを示唆しています。abrdnでは、このような見方はおそらく楽観的過ぎると考えています。いくつかのケースでは、成長が期待外れとなる可能性が十分にあり、実際にそうなれば、現在の織り込みよりも大幅な利下げが必要になると考えられるからです。そのような結果は当然ながら、現地通貨建て債券市場のリターンにとってプラスになるとみられます。

米連邦準備理事会(FRB)の新たな利下げサイクルの重要性

外部環境に関しても、FRBが最近、新たな利下げサイクルを開始したことから、新興国(EM)現地通貨建て債券の市場環境は今や明らかにより良好になっていると考えます。これは、米国金利の低下は米ドルに下落圧力をかける傾向にあるため、ドル安は新興国通貨にプラスとなります。実際、こうした動向がこのところ確認されており、JPモルガンが算出する現地通貨建て新興国債券指数の為替リターンは9月だけで2%を超えています[1]。

米国金利が低下すると米ドルが下落する傾向にあるのはなぜでしょうか。このような傾向を説明する多くの方法がありますが、すべての方法は大まかな考え方として、米ドル建て資産の保有期間利回り(HPR)の低下を軸としています。例えば、米国の高金利は、米国の投資家に国外でよりリスクの高い投資をするよりも、銀行への預金を続けるよう促します。さらに、これらの投資家が米国外の高リスク資産への投資を削減し、国内に資金を還流させることで、米ドルに上昇圧力がかかる場合もあります。そして、米国金利が低下している現在、この動きは逆方向に働いています。

これは、低金利国で借り入れた資金を高金利国の通貨の購入に充てる「キャリートレード」の観点から捉えることもできます。多くの新興国で米ドル預金が過去最高となっていることも同様の論理によるものです。これは、米国金利が上昇すると、米ドルを保有したり「運用」したりするメリットが、自国通貨でそうする場合よりも大きくなることを反映しています。

米国の利下げは、新興国通貨に好影響を与えるだけでなく、一部の新興国の中銀が同じ行動を取る意欲を高めることによって、新興国(EM)現地通貨建て債券のリターンにも一定のプラスの影響を及ぼす可能性があります。

世界の成長鈍化に対するヘッジ

米国の利下げは今や市場に十分に織り込まれていると言えます。しかし、米国の成長が期待外れとなった場合、より景気刺激的な水準まで金利を引き下げることを余儀なくされる可能性があり、これも新興国通貨にとってプラスとなり得ると考えます。欧州に関しては、最近の製造業データは、成長が期待外れとなるリスクがより現実的になっていることを示唆しており、実際にそうなれば、ユーロ圏の投資家が新興国(EM)現地通貨建て債券から得る為替リターンは押し上げられる可能性があります。

一方、中国では、成長率が望ましい水準を下回ることが、リスクというよりはすでに現実になっています。実際、これは9月下旬に当局が財政・金融政策による景気支援の大幅な拡充を打ち出した理由を説明しています。FRBの利下げは、おそらくこの決定の1つのきっかけになったとみられます。abrdnは、新興国の観点から言えば、中国のこうした措置から想定されるプラス効果として、対中輸出が多い新興国の通貨がより強く下支えされることが挙げられると考えます。

主なリスク

全体的な内部環境と外部環境は、新興国(EM)現地通貨建て債券にとって良好になりつつあるものの、これまで通り、留意すべきいくつかの問題があります。新興国ではよくあることですが、最も顕著なリスクは各国固有の内部リスクであり、これは国を慎重に選ぶ必要性を浮き彫りにしています。

外部環境に関しては、現時点では当然ながら、中東の紛争状況の悪化と拡大に関する懸念が高まっています。これは、リスク回避姿勢のより全般的な強まりや、新興国のインフレ率を再び押し上げ始めかねない原油価格の上昇を通じて、新興国(EM)現地通貨建て債券に悪影響を及ぼす恐れがあります。

本稿執筆時時点(2024年10月)、目先の米大統領選挙は、新興国にとってのもう1つの主要なリスク要因です。結果は五分五分の見込みですが、トランプ氏が勝利すれば、米国に到着するすべての輸入品に適用される関税率が引き上げられ、中国製品に対する関税率の引き上げは特に大幅なものになる可能性が高いと広く予想されています。これは新興国の現地通貨にとってマイナスになるでしょう。米国の輸入減少は、米国の対外収支と米ドルの両方を支えるとみられるからです。

まとめ

総合すると、リスクや国を慎重に選ぶ必要性はあるものの、全体として、内部環境と外部環境はいずれも新興国(EM)現地通貨建て債券にとって今やかなり良好であると思われます。内部環境に関しては、インフレ率の低下が新興国の実質利回りの支えとなり、各国の利下げを可能にしています。こうした利下げは現在の市場の想定を上回る規模となる可能性もあります。外部環境についても、米国の新たな利下げサイクルは、対米ドルでの新興国通貨のパフォーマンスを押し上げるため、大きなプラス要因になると考えます。

  1. JP Morgan GBI-EM Global Diversified Index、JPM Emerging Markets Bond Index Monitor、2024年10月1日