6月、欧州中央銀行(ECB)は慎重に利下げサイクルに踏み出しました。ECBの中銀預金金利は本稿執筆時時点(2024年6月)で3.75%です。これは、ユーロ圏のインフレ動向の改善に伴うものです。

高い利回りは今後数年間、インカムゲインとキャピタルゲインの双方において大きな好機をもたらすため、利上げから利下げへの政策転換は欧州債券に大きな利益をもたらすでしょう。

1つの時代の終わり?

ECBは1998年の設立以来、最速かつ最大の利上げサイクルを経て、中銀預金金利を4%に据え置いてきました。歴史的に、金利の低下は債券パフォーマンスを下支えし、利回りの低下と価格の上昇をもたらします。

債券の価格と利回りはシーソーのような動きをします。利回りが低下すると価格が上がります。ブルームバーグ・ユーロ総合指数は1999年以来、ECBの各利下げ後12カ月間については平均5%以上のリターンで推移しています。この期間の上位75パーセンタイルは8%超、下位25パーセンタイルのリターンは2%前後と、良好な分布となっています。

欧州債券の基本的な見通しは、経済成長、インフレ動向、ECBの政策スタンスの3つの主な要因に基づいています。

欧州経済は相対的に横ばいの状態にあります。景気は改善傾向にあるものの、2024年のユーロ圏域内総生産(GDP)は、過去7年の年平均を下回る1%未満にとどまると予想されています。しかし、企業については安定した収益傾向が期待されており、債務返済能力は引き続き堅調な見通しです。

欧州のインフレ動向は2024年に入ってから着実に改善を続けており、5月のコア・インフレ率は2.9%と前年同月の5.3%を大きく下回りました(5月のインフレ率は予想外に若干上振れしましたが、インフレ率の低下過程においては一時的な上昇は常に起こり得ます)。しかし、インフレに対する勝利宣言は時期尚早です。ディスインフレ(インフレ率鈍化)のペースが2023年下半期と比べると減速している状況に、依然として高水準の賃金インフレとエネルギー価格のインフレ低下へのマイナスのベース効果が重なると、ユーロ圏のヘッドライン・インフレ率(総合インフレ率)は2024年を通してECBの目標値2%を上回ったまま推移する可能性があります。

今後の見通し

ECB当局者は6月の利下げ後も経済データを注視し続けています。特に、サービス価格のインフレ率が2024年後半に3.5%以下に鈍化することを望んでいます。この水準は、ECBが3月に発表したインフレ率見通しに沿うとともに、75ベーシスポイント(bps)になると言われている年内の主要政策金利の下げ幅を正当化するものとなります。abrdn(アバディーン)は、よりアグレッシブな金融引き締めには、インフレ率がECBの目標値である2%を下回るようにディスインフレを加速させる必要があると考えています。ただし、このシナリオの実現に不可欠なデータはまだ存在せず、米国の利下げサイクル開始の遅れがECBの今後の政策判断をさらに複雑にすることも予想されます。

欧州債券への影響

2024年の欧州債券の利回りは、米国の堅調な景気と依然として高水準のインフレ率による市場価格の変化を受け、ほぼ一貫して上昇し続けてきました。米国の利下げサイクルへの期待は当初の大幅なものから小幅なものへと変わっています。欧州の成長率、インフレ率、そして政策スタンスは他の地域との乖離が増大傾向にあるため、abrdnでは投資妙味があると考えています。

注目ポイント

abrdnでは、償還までの残存期間が短い投資適格社債および国債が特に魅力的だと考えています。殆どの場合、投資開始時に高利回りである債券は高いトータルリターンをもたらします。通常、利下げ後にイールドカーブがスティープ化するため、残存期間が短い債券は利下げの恩恵を受ける可能性が高くなります。その結果、残存期間が短い債券の利回りは長い債券よりも大きく低下し、得られるリターンが高くなります。

クレジット市場では、中長期的には欧州投資適格社債が魅力的です。歴史的に、中央銀行の利下げ直後の12カ月間、投資家の間で魅力的な利回りの債券に対する需要が高まることから投資適格社債のパフォーマンスに好影響をもたらします。最終利回りも魅力的です。投資適格社債にはStoxx欧州600指数(流動性の高い欧州の600銘柄の加重平均株価指数)配当利回りを50bps上回るプレミアムがついています。

2023年の債券ラリーの対象となったことを考慮すると、もはや投資適格社債のクレジット・スプレッドについては「割安」とは言えません。しかし、欧州の投資適格社債のスプレッドは、歴史的関係に基づいて米国市場と比較すると依然として10ー20bpsほど割安な状態が続いています。abrdnでは、欧州社債のスプレッドは現在も続いているロシア・ウクライナ戦争とそれに伴う欧州のエネルギー安全保障への懸念を十分に折り込んではいないと考えています。欧州クレジット市場の中では償還期限が1年から5年までの短期社債をabrdnは選好しています。欧州国債利回りが相対的に変わらない場合、投資家は90bpsの追加利回りを得ることができます。利回りが下がれば、リターンが上昇します。経済成長が弱まり、スプレッドが拡大すると、国債利回りは低下し、全部ではないにしても殆どのキャピタルロスが相殺されます。これによって、投資開始時の利回りを考慮すると、最終的にはポジティブ・リターンを実現できます。

一方、ハイイールド債の場合、そのリスクに見合う追加的プレミアムは比較的わずかな水準にとどまっています。そのため、abrdnはハイイールド債に対してはやや慎重な見方をしています。とはいえ、ハイイールド債そのものには非常に有利なテクニカル要因が反映されています。それらの例としては、投資家の運用姿勢が慎重になったこと(現金比率の引き上げ)、新規発行がほとんどなかったこと(供給)、複数の銘柄の投資適格債への格上げ(フォードなど)が挙げられます。これらの結果、ユーロ建てハイイールド債市場の規模は過去2年間で15%縮小しました。

おわりに・・・

ECBは予想通り6月に利下げに踏み切りました。これは債券投資家にとってインカムゲインとキャピタルゲインの双方を狙える好機です。重要なことは、気を緩めずに、経済データの変化を注視し続けることです。