2024年4月以降、スペインの主要都市や島々では大規模な反ツーリズム抗議デモが起きています。ツーリズムに反対する活動家たちは、観光客が住宅費を高騰させ、住民が都市中心部に住めなくなっていると主張しています。これはスペイン各地のより広範な住宅危機に発展しつつあり、スペイン中銀の報告によると、市場価格で住宅を借りている世帯の半数近くが、貧困や社会的疎外のリスクにさらされています。
手頃な価格の住宅の危機
スペインの住宅ストックのうち、価格が手頃と分類されるのはわずか2%にすぎず 、これは欧州連合(EU)平均の9.3%を大きく下回っています。手頃な価格の住宅に対する需要は供給をはるかに上回っており、人口増加、移民、学生や若手専門職の流入、Airbnbのようなプラットフォームを通じた短期賃貸物件の増加が、危機を助長しています。大都市では、住宅費の高騰により、低・中所得世帯が住宅を購入することはほぼ不可能になっています。賃貸市場は非常に逼迫しており、家賃の高さが住民を郊外や他の町に追いやっています。
公有地および私有地での住宅建設
インフラ投資はこの危機を救うのに役立ちます。コンセッション契約や地上権契約は、手頃な価格の住宅の不足に対処するための革新的な解決策です。こうした仕組みは、差し迫った社会的課題に取り組む持続可能な方法を提供すると同時に、長期的なリターンを求める投資家にとって魅力的な投資機会を生み出すでしょう。
では、これはどのように機能するのでしょうか。
コンセッション契約
公共機関(地方政府など)が、公有地を使用・管理する権利を、通常30~75年の一定期間にわたって民間の開発業者に与えます。それと引き換えに、開発業者は住宅を建設・管理し、多くの場合、価格をコントロールします。契約期間が終了すると、土地と場合によっては建物の所有権は元の所有者に戻り、長期的な公益が確保されます。
地上権契約
この取り決めはコンセッション契約と似ていますが、公有地に限定されません。開発業者は、私有地に建設する権利を一定期間(通常は50~99年)にわたって取得できます。契約が終了すると、建物は土地所有者に返還されます。
これらの仕組みは、公共機関と民間投資家にウィンウィンのシナリオを提供し得るでしょう 。また、長期にわたって所有権を維持しながら、手頃な価格の住宅プロジェクトに土地を利用できるようにします。いずれの仕組みも土地を取得する必要がないため、初期費用を大幅に削減することができ、ひいては需要が高く土地代が法外に高い市場でも手頃な価格の住宅を開発することが可能になります。
スペインで成功した開発事例
コンセッション契約や地上権契約を利用しようとする投資家にとって、スペインでは様々なアクティブ投資の機会があります。例えば、マドリードの「Plan VIVE」は地方政府によって立ち上げられ、今後8年間で2万5,000戸の手頃な価格の賃貸住宅を開発するという野心的な目標を掲げています。コンセッション契約を通じて民間の開発業者に公有地が貸与されますが、その賃料は市場価格よりも30%低い水準にとどめるという規定があります。最近の入札では、ヘタフェやバルデモロのように手頃な価格の住宅への需要が高い地域にプロジェクトが割り当てられています。
同様に、バルセロナ市政府は最長99年間の地上権契約に基づいて住宅協同組合に土地を割り当てており、その一例はサンツ地区で環境に優しい手頃な価格の住宅プロジェクトの開発に成功したラ・ボルダ住宅協同組合です。特にポブレノウのような新興地域では、同様の機会がいくつか予定されています。
官民パートナーシップによるインフラ・モデルの利点
コスト効率の高い参入
これらの仕組みは土地取得を不要にすることで、プロジェクトを資金面で実行しやすくし、参入障壁を引き下げます。
長期的な安定性
契約期間を数十年とすることで、コンセッション契約と地上権契約は予測可能な収益源をもたらし、市場のボラティリティ・リスクを低減します。
社会的インパクト
手頃な価格の住宅プロジェクトは、財務的リターンにとどまらず、ホームレスや住宅格差といった重大な社会的課題に対処することで、都市の安定性や包摂性に寄与します。
持続可能性を重視
多くのプロジェクトは、エネルギー効率の高い設計やコミュニティ・アメニティ(地域社会の快適性や利便性を向上させる施設やサービス)を取り入れ、長期的な価値と環境インパクトを高めています。
将来を見据えた柔軟性
開発業者は、再生可能エネルギー・システムへのアップグレードや複合用途スペースの統合など、時とともに変化する地域社会のニーズにこれらのプロジェクトを適応させることが可能です。
課題と緩和戦略
コンセッション契約や地上権契約プロジェクトへの投資には、明確な利点がある一方、特有の課題も伴います。
規制の複雑さ
スペインの住宅政策は地域によって大きく異なり、そうした違いに適切に対応するにはその地域の専門知識が必要です。経験豊富な法律顧問や地元の開発業者と協力することで、プロセスを合理化できると考えます。
小さい利幅
手頃な価格の住宅に対する価格上限は、収益性を制限する可能性があります。投資家は、小売スペースやコワーキングエリアといった複合用途施設を組み込み、追加収入を生み出すことで、この問題の軽減に寄与できます。
地域社会の抵抗
手頃な価格の住宅プロジェクトは、地域社会からの反発を受けることがあります。早期の対話と透明性のあるコミュニケーションは、開発がもたらす社会的・経済的利益を強調することで、支持を築くのに役立つでしょう。
契約終了時のリスク
コンセッション契約や地上権契約の期間終了時には物件を返還しなければならないことから、運用期間中のリターンを最大化するための慎重な資金計画が必要です。
おわりに…
スペインにおける手頃な価格の住宅の危機に伴い、革新的な解決策が喫緊の課題となっています。コンセッション契約と地上権契約は、投資家が住宅不足に対処することで社会的インパクトをもたらすと同時に、長期にわたり財務的リターンを生み出すことを可能にし、スケーラブルで実践的な道筋を提供します。このセクターへの投資には課題もありますが、政府と民間セクターが協力することで手頃な価格の住宅の開発を推進し、スペインにおける社会的圧力を和らげるチャンスがあると考えます 。