金利がピークから反転し、不動産のバリュエーションが安定してきた今こそ、住宅セクターを新たな視点から見直す絶好の機会でしょう。不動産の全般的な価格調整を経て、また住宅セクターの基本的なパフォーマンス特性を踏まえると、欧州の住宅不動産市場は再び投資家にとって重要な投資機会になっていると考えられます。底堅さ、インフレ連動型のキャッシュフロー、安定したリスク調整後リターン、拡大している投資ユニバースなど、このセクターのプラスの特性に投資家が改めて注目する十分な理由があります。

abrdn(アバディーン)の最近のレポート、家賃のアフォーダビリティ(手頃さ)欧州の学生用住宅(英語でのみご提供)、そして、より詳細なレビューに焦点を当てた欧州住宅市場(英語でのみご提供)と同様に、本稿では投資家の間で現在、なぜ住宅セクターが欧州の最も好ましいセクターと見なされているのか紹介します。

住宅セクターを新たな視点から見直す絶好の機会でしょう。

住宅セクターのパフォーマンス特性

過去20年にわたり、欧州の住宅不動産は魅力的な不動産投資セクターとなっており、そのリスク調整後リターンは他のセクターをアウトパフォームしています。MSCIのデータによると、2001ー2023年の欧州住宅資産のリターンは年率7.2%であり、トータルリターンのボラティリティはすべての不動産セクターの中で最も低い水準でした。欧州住宅セクターの底堅さは、コロナ禍において特に顕著でした。abrdn独自のデータでは、賃料の徴収がリテール(小売店舗)資産では15%減少したのに対し、住宅セクターではわずか3%の減少にとどまりました。とはいえ、住宅セクターも最近の不動産市場の調整を無傷では逃れられず、金利上昇を受けて価値が低下しましたが、商業用資産はより大きな打撃を受けました。

また、底堅さは将来にわたって続く特性と考えられます。住宅セクターは、柔軟な働き方、eコマース、オートメーション、技術革新による業務の陳腐化など、ネガティブな破壊的要因に直面することがはるかに少ないセクターです。浴室、キッチン、居住スペース、そして寝るためのベッドはどんな時でも必要です。民間不動産への投資における長期的な判断は、その建物の基本的な用途が予見可能な将来にわたって有効であるという確信に裏打ちされていなければなりません。住宅には、すべてのセクターの中で最も明確かつシンプルな長期的用途があります。これこそ、住宅セクターが投資家の購入リストの上位に挙げられている理由です。

住宅には、すべてのセクターの中で最も明確かつシンプルな長期的用途があります。これこそ、住宅セクターが投資家の購入リストの上位に挙げられている理由です。

不動産のセクター別トータルリターンとリスク特性


2001ー2023年の平均トータルリターン(%)
2001ー2023年の標準偏差(%)
単位リスク当たりのリターン(%)
産業用施設
8.9 8.1 1.1
住宅
7.2 3.4 2.1
ホテル
6.4 3.0 2.1
全不動産
6.3 4.3 1.5
その他
6.3 3.5 1.8
リテール
5.8 5.9 1.0
オフィス
5.6 4.7 1.2

出所:MSCI汎欧州四半期不動産ファンド指数、abrdn、2024年6月

拡大している投資ユニバース

欧州の投資可能ユニバースの規模は、汎欧州の住宅投資戦略を支える分岐に達したと考えられます。推定1兆5,000億ユーロの住宅資産は、欧州の投資可能な不動産市場全体の36%もの割合を占めています。ジョーンズ ラング ラサール(JLL)の推計によると、ドイツの主要7都市におけるオフィスから住宅への転換により、新たに2万戸近い共同住宅が誕生します。これは、不動産市場全体の一部として、住宅セクターの相対的な重要性と規模が増していることを浮き彫りにしています。

欧州住宅セクターへの投資は過去10年間で大幅に増加しており、クロスボーダー投資家や機関投資家からの注目が高まっています。2024年はこれまでに住宅セクターに165億ユーロが投資されており、これは欧州の不動産投資全体の23%と、すべてのセクターの中で最も高い割合を占めています。域内のダイナミクスも成熟しつつあります。2013年には欧州の住宅投資全体の50%がドイツでのものでしたが、年初来でドイツのシェアはわずか20%にまで低下しており、英国、フランス、スウェーデン、オランダ、スペインがシェアを拡大しています。

今後については、投資家の意向調査では、向こう12ヵ月に選好するセクターとして住宅が挙げられています。これは、住宅セクターが成長を続け、より成熟した米国市場に収れんしていくことを示唆しています。

加えて、さらなる成長が待っています。「住宅」の定義には、学生専用住宅、高齢者住宅、サービスアパートメント、一戸建て賃貸住宅、コリビング住宅など、より新しいサブセクターも含まれます。いずれにも力強い需要のファンダメンタルズがあり、民間賃貸セクターと賃貸専用住宅セグメントをさらに補完しています。PwC(プライスウォーターハウスクーパース)の「Emerging Trends in Real Estate Europe 2024」では、投資家が選好する上位10のセグメントのうち5つをこれらの住宅サブセクターが占めています。英国、フランス、スペイン、北欧諸国は、こうした新たな住宅サブセクターにおいて特に魅力的な投資機会を提供しており、汎欧州の住宅投資戦略の潜在的な幅がさらに拡大しています。

ライフサイクル別の投資可能な住宅サブセクターと各々に必要な運営・管理の程度

出所:abrdn

しかし、こうした成長は、住宅投資専門ファンドが欧州全体に投資を拡大する可能性を後押ししているだけではありません。通常は純粋な商業用セクターに投資する機関投資家向け商品も、住宅への投資を増やしています。2023年には、MSCI汎欧州四半期不動産ファンド指数の14%が住宅資産に割り当てられ(2019年は5.6%)、リテール資産の15%に迫りました。

需給動向

住宅のアフォーダビリティの制約、都市化、移民の純流入、その他の人口動態の変化といった需要の主な原動力が引き続き住宅セクターを支えています。欧州の都市は2022ー2035年に平均6%拡大するとみられますが、新規住宅開発は今後2年間で10%減少すると予想されています。先行指標は落ち込んだ水準にあり、ドイツの統計が欧州全体の状況を示唆しています。ミュンヘンを拠点とするIfo経済研究所の企業景況感指数のデータによると、ドイツの不動産開発業者が将来の活動水準についてこれほど悲観的になっているのはほぼ25年ぶりのことです。開発業者は世界金融危機以降で最も急激な人員削減を計画しており、稼働率(受注がフル状態にどれだけ近いかを示す指標)は過去10年以上で最も低い水準にあります。需要が増加する中、新規供給は著しく減少する見通しです。

その結果、住宅のアフォーダビリティの問題がリスクとなっており、投資家はこのリスクを理解し、それに対処する必要があります。2022年には、賃貸契約で定められた賃料の自動増額率と公開市場における賃料伸び率がいずれも2桁を突破し、2024年第1四半期までの1年間で正規賃料は欧州全体でさらに7%上昇しました。こうした賃料上昇圧力に対する規制当局の対応も投資環境を形作るうえで重要な役割を果たしていますが、これらの政策は供給水準に悪影響を及ぼしています。

複数の地域に分散投資することは、投資家が特定の市場における政策変更へのエクスポージャーを抑制できる1つの方法です。投資家は、中間市場の賃貸に焦点を当て、世帯収入に占める家賃の割合を30ー40%とする制限を設けることもできます。

質とサステナビリティの重要性

サステナビリティやエネルギー効率が最重要事項となっており、資産価値や投資判断に影響を及ぼしています。EU Building Stock Observatoryの推計によると、欧州の住宅の38%が1970年より前に建てられたものであり、そのうち気候目標を達成するために改修されているのはわずか12%に過ぎません。脱炭素化の期限が刻一刻と近づく中、エネルギー効率を促進する規制の発展が投資基準を変化させています。サステナビリティは今や、将来のパフォーマンスを決定するうえで極めて重要な要素となっています。

ドイツ連邦政府が2023年に導入した新たな炭素排出税を見ればそれが分かります。これは、エネルギー効率の低い建物の家主に、炭素税のより大きな割合を負担させるものです。排出量を相殺するには、カーボンクレジットを購入しなければなりません。こうしたカーボンクレジットのコストは今のところ固定されていますが、価格設定がはるかに不確実になる取引所への移行に先立ち、2025年には段階的な値上げが予定されています。コスト管理を通じて営業純利益(NOI)を最大化することが成功のカギとなるセクターでは、エネルギー効率の低い建物への課税によって、パフォーマンスの原動力としての質とサステナビリティの重要性が一段と高まるでしょう。

エネルギー効率を促進する規制の発展が投資基準を変化させています。サステナビリティは今や、将来のパフォーマンスを決定するうえで極めて重要な要素となっています。

おわりに

住宅不動産セクターは底堅さを発揮しており、不動産サイクルの現段階で魅力的な投資機会を提供していると考えられます。住宅セクターは、長期的かつ構造的な需要の原動力、低水準の供給、成長可能性、サブセクター間での異なるファンダメンタルズを特徴としています。市場が発展する中で、サステナビリティを優先し、住宅のアフォーダビリティの問題に対応する適応的な戦略が、長期的な投資の成功を達成するうえで重要となるでしょう。

運用ソリューション

関連コンテンツ