一部の企業幹部が、ブロックチェーンや分散型台帳技術(DLT)が自社に与える影響について熱弁をふるう一方で、暗号資産を投機、詐欺、さらにspaced out monkeys (宇宙開発のためにロケットに乗せられて茫然とするサルの写真)と同一視して軽蔑するのはよくあることです。「デジタル資産」特集第3弾では、暗号資産がブロックチェーンの鍵である理由について解説します。

暗号資産とブロックチェーンの本質的なつながり

実際、暗号資産に対するこうした偏見は、暗号資産取引会社FTXの大規模詐欺事件、複数の金融業者やヘッジファンドの破綻、パンプ&ダンプ(株価操作)スキームなど、過去数年に起きたいくつかの事件によって増幅されてきました。しかし、いずれの行為も暗号資産に限定されたものではなく、従来型の金融市場でもおそらく長年蔓延しています。デジタル環境の進化が止まることはありません。企業にとって暗号資産とブロックチェーンの本質的なつながりを認識することの重要性は増すばかりです。

ほとんどのパブリック・ブロックチェーンの機能の要は暗号資産です(パブリック・ブロックチェーンには誰でも参加できますが、それらのすべてが同じように構築されているわけではなく、企業としての魅力の度合いには開きがあります)。暗号資産は、各ブロックチェーンの中だけで使用される支払いメカニズムであると同時に、技術のイノベーションとネットワークのセキュリティのインセンティブにもなっています。

金融サービス業界では、進化することができずにいる企業経営陣は、パブリック・ブロックチェーン導入で先行する先進的な金融機関から取り残されるのは必至です。

DUNCAN MOIR, オルタナティブ投資、シニア・インベストメント・マネジャー

暗号資産については、その代表格であるビットコイン(Bitcoin)が主として商品やサービスの代金決済の手段として使われてきたために、すべての暗号資産も同様に使用されていると広く誤解されています。さらには、暗号資産には実質的価値はなく、投機家の間だけで取引されるという誤解さえ広がっています。実際には、ほとんどの暗号資産は、商品やサービス代金の決済手段というより、それぞれのブロックチェーンを使用するための支払いメカニズムとして設計されています。多くの大企業 (例: ビザ、PayPal、ソシエテ・ジェネラル、EDFなど)は現在、パブリック・ブロックチェーンをすでに使用しており、ネットワーク手数料(「ガス代」と呼ばれることもある)として使用するブロックチェーン独自(ネイティブ)の暗号資産(仮想通貨)で直接的または間接的に支払いを行っています。

ブロックチェーンの利用拡大は暗号資産の需要増加を意味する

多くのブロックチェーンでは、暗号資産の供給に上限、または少なくとも一定の制限を設けています。特定のブロックチェーンの使用が拡大すると、そのネイティブ暗号資産で使用料を支払う需要が高まり、その暗号資産の価値は上昇します。これは、通常、ネイティブ暗号資産で報酬を受け取るブロックチェーン事業者やブロックチェーン開発者にとって、さらなるイノベーションを行い、それぞれのブロックチェーンに競争優位性をもたらそうとするインセンティブとなります。さらに、最も普及しており、企業に最もよく使用されているいわゆるプルーフ・オブ・ステーク・ブロックチェーンは、暗号資産ネットワークを運営する権利として暗号資産を「賭ける(stake)」(保有する)参加者に暗号資産の取引承認権限を分散することによって、そのセキュリティを保護しています。その報酬はネイティブ暗号資産で支払われるため、暗号資産ネットワークのセキュリティのさらなる向上につながります。

暗号資産がなければ、アントレプレナー(起業家)が革新的なブロックチェーン技術を構築する真のインセンティブを引き出すことは不可能です。同様に、暗号資産がなければ、ブロックチェーン・ネットワークの運用とセキュリティを確保するインセンティブも生み出せません。暗号資産を必要としないプライベート・ブロックチェーンが存在し、事業の運用効率を高める目的で複数の企業がそれに参加して、成功しているところがあるのは確かです。しかし、ほとんどの企業にとっての真の目標は、世界中の幅広いオーディエンスにアクセスし、それぞれの製品やサービスの供給網を拡張する能力を獲得することです。パブリック・ブロックチェーンはそれを可能にします。

ブロックチェーンのさらなる普及の必要性

従来型の企業には、ブロックチェーン技術と暗号資産に関する本格的な理解が求められています。このようなレトリックが最もあてはまる金融サービス業界では、進化することができずにいる企業経営陣は、パブリック・ブロックチェーン導入で先行する先進的な金融機関から取り残されるのは必至です。幸いなことに、その差を埋める時間はまだ残っています。ただし、2024年はブロックチェーン導入にとって重要な年になることが予想されているため、足元の機会を最大限に活用する必要があります。